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2014年6月 2日 (月)

母がグループホームに入所しました

 土曜の夜、寝つけなかった。

 暑いのもあったけど。

 母を入所させる覚悟は一ヶ月でできた。

 グループホームで 母の尊厳を保ちながら、穏やかに生活できるんだ!って前向きに思えるようにもなった。

 入所までに私ができる範囲の準備もした。ホームの職員さん達とコミュニケーションもとれた。

 そのせいか、不思議に不安は無くて「きっと予定通り入所できる」と思えた。

 でも布団の中で寝がえりをうちながら、母があの家で寝る最後の夜なんだなぁ…何も知らずに寝てるんだなぁ…と思うと、やっぱり切なくて悶々とする。

 4時過ぎにようやくうとうと。

 早朝の電話のベルで目覚める。出た途端に切れる事2回。

 水曜日に「6月1日(土) 夫桃さんと午後12時半頃迎えに行くよ。一緒にランチしよう」と書いて置いて来た紙を見て、時間の認識ができなくなってる母がきっとかけてきたんでしょう。

 打ち合せ通り、夫の車に布団や荷物を積んで2台で出発。

 土曜も今年の最高気温を更新し、日曜はさらに上がる予想。

 出掛ける時にはすでに息苦しい。

 気力と責任感で動く。

【起】

 実家へ着くと、母が満面の笑顔で玄関まで出て来て「夫桃さん、せっかくの休みなのにごめんねぇ~ よろしくお願いします」と。

 私の大好きなブラウスを着て、化粧こそしてないけど、以前の母みたいにきちんとしてた。

『お母さん、今日 すごく可愛いねぇ!その服 上品で素敵!』 これでまた母の笑顔が輝く。

 私達夫婦とのランチを心待ちにしてたんだね…騙し打ちとも知らず。

 私の予定では、母はそこまで仕度ができていないはずなので、母が着替えている間に、母の掛け布団からシーツをはいで夫の車に載せる…んだったけど。

 予想に反して仕度は済んでた(苦笑)

『お母さん、トイレは大丈夫?』と促して その隙に私がシーツをはいで夫が素早く3往復して運ぶ。

 いつもはじりじりする母の長いトイレも こういう時は助かる^^

 枕、歯磨き、さっきまで使っていた物も載せる。

 30分の予定が10分で完了。

 ご機嫌な母を私の車に乗せる。

 夫と別の車だって事を変だとは思わないところが認知障碍だよね。

【承】

 ファミレス系の和食の店へ。

 そこでもご機嫌な母。

 夫と目配せして、作戦第一段階に入る。

『お母さん、○の郷へ もう3年通ったでしょう』

「そんなになるかねぇ? お母さん、○の郷へ行ってなかったら きっとボケてたと思うわ。あそこは、お母さんにとって癒し。本当にいい所へ入れてくれてありがとう」

 いや、もうボケてるし…ってツッコミは声に出して夫に。難聴もこういう時ありがたい。

『3年通うと卒業なんだわ』

「え~!?そうなの? お母さん そんな事 全然聞いてなかった」

 言ってたとしても覚えてないでしょうけど。

『最初にそう言ったよ』 ←うそ。

「ほんとぉ…じゃあ、お母さん もうあそこへは行けないんだねぇ。これからどうしよう」

 しめた!

『ちゃんと次のところは決めてあるよ』

「ほんと~! ゆうこが決めてくれたの?」

 決めたのは弟だけど、ここは頷いておく。

『6月から、○の泉へ行くよ。新しくて綺麗なところだよ』

 普段は、無口な夫がオーバーアクションで

「僕も見てきたけど、いいところだよ~」

 それを私が『ま/僕も見てきたけど、いいところだよ~』と、書いて見せる。 夫の表情を見て母も理解している。

『今から一緒に見に行くよ』

「ほんと~ 悪いねぇ」

 第一段階、思った以上にスムーズにいった。

 外は暑いし、約束の時間までまだあるので『ここでゆっくりしていこうね』

 そこへ、思いがけず「おばさん!」と顔を出したのはヤイちゃん。

「今日は、S大(長男君)の車で来たんだけど、今 出たら、隣に花桃の車があったんだわ」

 すごーい! 私はS大君の車はもちろん、ヤイちゃんの車が隣に停まってても気づかないわ。

 ヤイちゃんを見てもきょとんとしてる母に『ヤイちゃん』と書くと「あ~ヤイちゃん」

 ん~ヤイちゃんの顔は忘れちゃってたか…と思ったら、ヤイちゃんが

「『ヤイちゃん』の言い方が合ってる」って。

 あ~そうだった! 記憶の深くに残ってる事は消えないね。

「おばさんに逢えてよかったわ~!」 何もかも事情を知ってるヤイちゃんが ごく普通に話し掛け、母も私のノートテイクを見ながら「ヤイちゃん お母さんは元気?」などと尋ねる。

「じゃあ、車で待たせてるから行くわね」夫と私の顔を交互に見て ヤイちゃんが目で気持ちを語って帰って行った。

 母は「友達っていいねぇ。お母さん 泣けてくるわ」と。

 私はすでに涙目だったけど、母が泣けてくるとは…母にも何か伝わってるんだね。

 後で、ヤイちゃんはメールで「私は 私の想いも おばさんの想いも 伝わり合ったと思えたよ」と。

 直前で、こんな援護射撃を貰い、夫と私は盛んに○の泉がどんなに素敵なところかを刷り込み、2台で出発。

 順調順調。

【転】

 ○の泉に到着。

 母は施設の職員さん達にも 本来の母らしく「お世話になります。よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げる。

 さんざん「きっと修羅場になります」と言っておいたので、職員さん達も「???」としつつ、安心された表情。

 施設長さんが別の方と面談中だったので、3人でリビングでお茶をいただきながら待つ。

 そこで最終段階に突入。

『弟桃が研修で、耳の遠いお母さんを一人で置いていくと、夜が心配なので、今日はここで泊まってね』

 ここでまず「一人でも平気だわ!どうしてこんな所へ泊まらないといけないの!」と最初の怒り。

 想定済みなので『本当はうちへ泊まってもらうといいんだけど、泊められなくてごめんね』

 夫が居るうちに泊まるのは、母が気を遣うのを知っての作戦。

「夫桃さんに迷惑かけられないわ~」

 母の物忘れを利用して、どんどん話題を変えて、怒りをおさめる。

 なんとな~く納得したかに見えた。

 ところが!!

「あいつが居る! あんな奴が居る所へは お母さん 来る気ないよ!!」と突然 大声で怒りだした。

 母がテーブルの下で指差す(丸見えだけど)先には、一人の女性が。

 ○の郷に行き始めて喜んでたのに、数ヵ月後「今日は休みたい」「体調が悪いから休むって連絡して」と 度々 行かなくなった事がある。

 ある日「嫌いな人がいる」と打ち明けられた。

「お母さんが挨拶しても 知らん顔してる。いつも無視される」と。

 ん~返事しても母には聴こえてないだけだと思うんだけど。

 ケアマネさんにも相談して、その人とは会わないようにしてもらった。

 これがまた不思議なご縁で、その人は、のりちゃんの嫁ぎ先のお義母さんのお友達だったの。

 最近は何も言わなくなったので、その人の事も忘れたかなぁ…と思ってた。

 私は会った事が無いので その人だと特定できなかったんだけど、部屋の名札を見て確信。 その人でした…。

 こちらにいらしてたのか…。

 母の怒りはどんどんヒートアップ。

 テーブルの上に置いたバッグを強く握りしめて

「お母さん、きちっと断るからね! こんな所 来ないから!!」 黙って頷くしかない。

 リビングで寛いでたお年寄りが 私達のテーブルに近寄っていらした。

 明らかに認知症。 職員さんが慌ててサポートに来てくれる。

 母はあからさまに嫌な顔をする。 本来は そういう人にこそ優しく振舞える母なのに。

『2階を見て来ようか?』

 母の部屋は まだ誰も入居してない2階。

 職員さんに案内してもらってエレベーターに乗る。

 乗った途端「こんなところ!!」と 壁を殴る真似。

 昔の母からは考えられない行動。

 私は夫の顔を見てため息をつく。

 こういう時、一人だったら行き詰る。

 部屋に入ると「ここで一人で寝るの?」と ちょっと不安をもらす。

「断る」事はもう忘れている。

 夫と私でまた盛り上げる。

『夜は職員さんがちゃんと居てくれる』

『一日中 寝ていても ご飯が食べられる』

『お手伝いしたら喜ばれるから、してあげてね』

『何もしたくない時は寝てればいい』

 極めつけは夫が母の顔を覗きこんで笑顔で「ホテルだね!」

 『あいつ』の事を忘れたので、母のご機嫌も戻りつつあり、夫を先に帰す。

「夫桃さん、せっかくの休みだったのに、本当にごめんねぇ~。ありがとうございました」

【結】

 2階は、母と私だけ。

 母の部屋を片付けながら、ノートテイクでおしゃべり。

 3時過ぎには職員さんがおやつを持って上がって来てくれた。

 私の分まで☆

「お母さん、着替え 何も持って来てないわ」

『大丈夫、全部 準備してあるから』

「○の郷には もう行かないの? 行かないって断らないといけないねぇ」

『ちゃんと卒業だから、連絡できてるよ』

「新しい所へ入ったって 言っておいてね。弟桃にも言っておいてね」

『任せておいて』

 このやり取りを数回繰り返す。

「ここは一ヶ月いくらなの?」

 あらま、一ヶ月居るつもりになったんだ…^^

 その数分後には「お母さん、どこも悪くないから、一ヶ月もここに居なくてもいいよね? さっきレントゲンなんか撮った?」 病院と間違えてるらしい。

『レントゲンは撮ってないよ。一ヶ月も居ないと思う』と 半分は嘘を書く。

 そのうちに「ゆうこ そろそろ帰らないと暗くなるよ」「早く帰らないと道が混むよ」と言いだした。

 おそらく疲れちゃって寝たいのね。

 ベッドに横にならせて、ベッド脇で座ってノートテイクのおしゃべり。

『お母さん、おしゃれパジャマ たくさん持ってるでしょう。4枚だけ持って来たけど、今夜はどれを着る?』

「そんなおしゃれじゃないけど~ これにするわ」と 満更でも無い顔。

 ちょっと泊まるのに4枚も用意してある事に不信感を持たない…苦笑。

 私が朝から書いた22枚の広告の裏紙を何度も読み返す母。

 読む度に「初めて読む」から、新鮮で飽きないよね。 

「お母さん、お父さんに申し訳なくて。私ばっかり こんな幸せでごめんなさい」

 …あらあら、ここに泊まるのを幸せだと思ってくれたんだ。

 夜勤の職員さんが上がって来てくれて、挨拶。

 母は職員さんに相手をしてもらうのが一番嬉しいの。

 当分 2階は母一人なので、昼間は1階で他の人達と過ごすけれど、夜は2階でマンツーマン。

 一人で夜勤の職員さんがトイレに立った瞬間に、母がトイレに起きたら どうなるんだろう? 誰も居ない見た事も無い場所で、母は困惑するだろうなぁ…下に下りる認識は無いし。

 そんな不安も頭も擡げるけれど、そこはプロなんだからお任せしよう。

 例の人の事は施設長さんにも話して「食事の時しか会う事は無いが、母桃さんの視界に入らないように座席を工夫します」と対処してもらえた。

 2階にしたのも偶然とはいえ良かった。

 2階の入居者が増えれば、1階とは別の社会になるはずだから。

 5時過ぎ、2階の職員さんと母に見送られエレベーターに乗った。

 昔、入院中の私に面会に来てくれる母(洗濯ものを持って週に2回は来てくれてた)がエレベーターに乗って帰るのを見送ったなぁ。

 今度は逆だ。

 お互いに少しだけ涙ぐみながらも笑顔で握手して エレベーターの扉が閉まった…そして私は声をあげて少しだけ泣いた。

 無事に入所させる事ができました。

 足りない荷物を取りに また実家へ。

 数時間前までは「実家・母の居る家」だったのに、なんだか違う家みたいに感じた。

 母の寝ていた寝室は、慌ただしくシーツをはいでむき出しになったままの敷布団が残されてる。

 一瞬の隙に持ち出せなかった衣類なども 再度見繕う。

 冬になったら、この敷布団を持って行かなくちゃ。

 昼前に 押入れから急いで持ち出した夏布団やタオルケットは、ホームのベッドに置いて見たら、あまりに汚れてみすぼらしかった。

 引き出物などで頂いた寝具の箱を棚から降ろすと、いい感じの物がいくつかあった。

 洗って名前を書くために持ち帰る。

 汗ぐっしょり。

 でも私の股関節が一番良い時だったのもありがたい。

 1年前だったら、まだ杖は手放せず、何をするにも倍は大変だったもん。

 ご近所にも 母入所のお知らせをお礼を伝えた。

 夜、何度も 母がどうしてるか…と想像した。

 8時にはもう寝てるはず。

 夜中にトイレは5~6回起きる。

 その度に「ここはどこだろう?」って思うよね。

 でも職員さんがマンツーマンで居てくれるから。

 

 今朝は、あの素敵なリビングで皆で朝食だな。

 エアコンも効いた快適な新しいペンションに居るんだよ。

 …ただ、入居者さん達は、私が見る限り、母よりも重症な人ばかり。

 デイサービスにいらしてた人達とは随分違う。

 デイサービスでは、母は耳が遠い事で、利用者さん達とのコミュニケーションがとれなかったけど、今度は別の意味でお互い様かもしれない。

 職員さん達だけが頼りです。

 今は、毎日でも覗いてやりたい気持ちだけれど、今日は母の洗濯ものがいっぱい。

 体も重い。

 念のためにOちゃんのお誘いも半月待ってもらってる。

 実家の掃除もしたい。弟の食事も仕度してやりたい。

 少しずつ…少しずつ。

 まずは自分の体が最優先。

 

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