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2015年1月 7日 (水)

母の変化

 正月に母を泊めた時の話です。

 『2日にホームへ迎えに行き、ホテルでお正月バイキングを夫と3人で楽しみ、夫はそのままホテル泊で、母と私は家で泊まり、翌日、お寺参り・父の墓参・ウインドーショッピングして夕方ホームに送る』と11月に計画した。

 最後に母を泊めたのは、夫のマラソン出場旅行に合わせたグループホーム入所前の5月。

 夜中のトイレに付き合う度に「ゆうこ~ありがとうね~」と笑顔で言うのが可愛らしかった。

 またそんな瞬間を味わいたい…私を認識できる母との時間は どんどん少なくなって来てるはずだから、母との時間を大切にしたい。

 甘かったなぁ…。

 迎えに行った時はいつもの母だった。

「お正月にうちに泊まってね」と以前 言った時は「お正月くらい夫桃さんとゆっくりしなさい」

『夫桃は、その日は居ないから大丈夫』「ほんと~! それならお母さん 泊まりたい! 嬉しい~!」と言ってたのに、この日は私が仕度をしてるうちに様子が変わって来た。

不機嫌なのは『ホテルでご飯食べるから、ちょっとお洒落してね』と着替えさせたせいかな。

 着替えやパジャマを一式 揃えた時には「こんな寒いのに、どこへ行くの!」と怒りだした。

 職員さん達が「母桃さん、素敵~! 楽しんで来てくださいね~」と満面の笑顔で覗きこんでも仏頂面。

 車の助手席に座らせて出発。

 いつも私と外出する時、助手席での決まり文句は「お父さんが羨ましがってるわ~(繰り返し)」なのに、それも出ない。

 夫を拾ってホテルバイキングへ。

 以前の母は私よりも足腰は丈夫でスタスタ歩いていたのが、なんだか足元がおぼつかない。 

 おそらくホームでの快適な生活で、脚力が衰えたんでしょうね。

 それと、どうやら人の多さにも困惑していそう。

 料理も手品もバルーンパフォーマンスも 全然 楽しんでる様子無し。

夫と「来年は、普通の店で食事した方がいいね」と話し合う。

 夫をホテルに残し(狭い家で母を泊められない・夫を巻き添えに出来ない・母が気を遣うため)、母と家に向かう…その直前に最初のアクシデント。

 ホテルから駐車場へ向かう階段が終わった所で、私が手袋を渡したのがいけなかった。

 よりによって大晦日から急に左太ももが痛み、ステッキを持っていた私は、歩きながらのノートテイクできず母の耳元で大声で「ここで止まって手袋はめて!」と言ったんだけれど、聴こえるはずもなく…手袋をはめながら歩き出した母は予想通り、小さな段差で転倒し尻もちをついた。

「痛ーい! おしっこ出ちゃった!」 青ざめる私。 おしっこよりも骨折してないか!?

 手を貸すと、自分で立ち上がれた。 ズボンのお尻を触ってみたら濡れてはいない。『ちょい漏れ』かもしれない。

 おぼつかないながらも自分で歩けるので骨折はしてなさそう。でもお年寄りは骨折してても気づかない事があるから…。

 不安なまま我が家へ。

 とにかく母はずっと挙動不審。おどおどしてる。

 でも半年ぶりの我が家で仏壇を見つけると、正座して(骨折はしてないな)

「御本尊様、はじめまして。花桃ゆうこの母です。どうか ゆうこを幸せにしてやってください」 噴き出した…はじめましてじゃないし。

続いて「一日も早く ゆうこが夫桃さんと一緒に暮らせますように」 またも噴き出す。どゆこと?

 さっきまで居た夫が居ない事には気づいてないんだけどな。

そして「ゆうこ いい所に勤めてるねぇ」 頷いておく。

リビングを見て「こういう本や飾りなんかは、ゆうこが揃えたの?」 「大家さんみたいな人はどこに居るの?」 

あちこちの部屋を開けて見て「変わったつくりだねぇ。そう思わなかった?」 「食べ物は置いてあるの?」

「包丁はある?」 『あるよ』 「ほんと~ ちょっと危ないねぇ」 ははぁ~ん、自分が居るグループホームと混同してるな。

 そしてまた仏壇の前に座って「はじめまして…」 仏壇だけは認識できるんだ。

 2回目のアクシデントは入浴。

ホーム入所前から入浴は嫌がった。

『一緒に入って』と促して、無理矢理浴室へ。 湯船につかると「あ~気持ちい~い。しあわせ~」と この日初めてのホッとした顔。

 で、ホームでも職員さんを困らせている洗髪を手ぶりで促したら「洗ったばかりだから洗わなくていい!」 うぅ…髪に顔を近づけると ちょっと匂うんだけどな。

 湯船に二人でぎゅうぎゅうに浸かりながら こうなったら強行手段だ!と 湯船の中で洗う事にして、後頭部にそっとお湯をかけた途端

「やめて!! 熱い!!」と大声で叫びのけぞり、湯船の角で後頭部を打った。 青ざめる私。 これじゃ虐待だ。

 頭を打った事が心配なんだけれど、母はそれはすぐに忘れるようで、とにかく怒る。普通に怒れるから、脳震盪とか脳出血は無さそうね…。

 怒りの勢いで洗い場に出ると「自分で洗うわ!」 でもシャワーの使い方がわからない。これは母に限らず、人んちの給湯システムには戸惑うよね。

 昔の母は教えればできたけれど、ホームでの操作が身についた今の母は、変なところを押してる。

 シャワーの操作やシャンプーを掌に出すのを手伝って、コンディショナーは省いて 犬の子を洗うような洗髪が終了。

「洗っといて!」とタオルを投げる。 はいはい。

 5月に来た時は 二人の入浴も嬉しそうだったんだけどなぁ…。

 幼児を入浴させる母親は、自分の体なんて洗ってられないだろうけど、まさにそれ。目が離せないし、待たせる事ができないから、私は化粧落としも湯船の中。

 若いシングルマザーが一人で乳幼児を育てるのは、こんな時も大変なんだろうな…と想像した。

 お風呂上がりに、ホームでいつもしてもらうように、ぬるいお茶を飲ませる。

 リビングのソファーでテレビをつけたけれど、全然 見る気がない。

 9時に 処方されている睡眠導入剤を飲ませると「もう寝るわ」と。

 どこで寝るのか、ゆうこはどこで寝るのか…この日 何度目かの質問に答えて、いつもは私が寝ている寝床に寝かせる。

 私は洗顔をしなおし、暮れから取りかかっている「言の葉ひろば」の会報編集をしながら、母の様子をうかがう。 あまりに静かなので心配になって、鼻の側に手を当てて息を確認。

 

 私も明日に備えて11時にはベッドへ。

 トイレのドアには『トイレ』と大きく張り紙をし、トイレの中にも『ゆうこは、隣の部屋にいるので安心して寝てね』と書いて張り、母の寝床と私の寝てる部屋のドアは全部開け離し、廊下の灯りも点け、できる限りの対策はしてある。

 でも気になって寝つけない。

 12時に母が起きる気配がした。 普段の休日の朝、夫が起きて台所でお湯を沸かしてても気づかずに寝てるのに、母がおそるおそる廊下に出てくるより先に ガウンを羽織って待ち受ける。

 そして3回目のアクシデント。

 母をトイレに入れて、扉の外で待つ。 …ちっとも出てこない。 かなり待つ。 そろそろ母も寒いはずだ…物音もしない。

 ノックしても「おかあさん」と呼んでも聴こえるはずが無いのが こういう時 不便。

 小さくドアを開けて覗くと、トイレットペーパーを握りしめて何かしてる。

 驚かさないように(声を掛ける前触れがないから、誰でも驚くよね) ドアをゆっくり開けて、母の上着を差し出すと

「あ~よく分かったねぇ~」とちょっと嬉しそうな声。 やっぱり相当寒かったんだ。

 そして母の全容を確認。 パジャマのズボンが足首にあるので、触ってみたらぐしょぐしょ。

 なるほど、濡れた下着とパジャマをトイレットペーパーで拭いてたのね。 そこで気づく。母のパジャマは、昔、私が緊急入院した時に母が買って来てくれた物で、上着の丈が長い。 おそらく上着をたくしあげてるうちに間に合わず粗相をしてしまったんでしょう。

 そう言えば、年末に母の所へ行った時も このパジャマのズボンだけが部屋にかけてあった。 その時も「もしかしたら漏らしたかな」とチラっと思ったの。

 そこからの対応は上手くできた。

 すぐに下着とズボンの代わりを持って来ると、言葉の説明が無くても母はそこで自ら履き替え「あ~ やっとあったかくなった」と。

 私はそのまま濡れた物の洗濯にとりかかる。

 粗相をした事には全く触れず、ごく自然に優しく対応できたんだけど、母の方が違ってた。

 布団に入ってから、手の届くところにあるものを いちいち引っ張り出す。(私の布団の周りには、色んな物が置いてあります…恥)

 引っ張り出すのはいいんだけど、元の位置に戻さず変な所に入れるので、後で私が困るから、どこに置くかは見張っておく。

 そのうち布団の上に起き上がり、さらにイタズラの範囲を広げる。

そして「お母さん、おねしょなんてしてないよね?」 うんうんと大きく頷く。

 あぁ…失敗した恥ずかしさを誤魔化してるんだな…。

「どこかの子どもがしたのかねぇ」 頷いておく。

「親がやらせたんだねぇ」 ??? でも頷いておく。

 ところが母は本気で起き上がって来てしまった!

 靴下も履かせ、上着の上に更に私の服を羽織わせる。

 パジャマのズボンと下着を隣の部屋で干す。

 起き上がった母の室内探検が始まる。

 あちこちの引き出しを開け、取り出した物を別の所に入れる。

 カメラケースのファスナーを開け(ここは乳幼児より器用にやる)カメラを取り出して、どこに置こうかうろうろする。

 クリーニングに出す予定の袋の中から出した衣類を 自分の荷物の入ったバッグに移す。

 私は母が動かした物を、さり気なく元の位置に戻す。

「夫桃さんは、まだ帰って来ないの?」 夫の事だけは 少し認識できてる。うんと頷いて見せる。

ノートテイクの道具も持って来て 本気で付き合う事に。

 家賃はいくらなのか? 『マンション買ったから家賃は無いよ』

 現金で買ったのか?ローンはいくらなのか? 誰が払ってるのか? ゆうこに収入はあるのか?

 馬鹿馬鹿しいと思いながらもノートテイクで答える。 そもそもマンション購入は、母がしっかりしてた時だったし。

そしてまた探検再開。

 1時半になる。 私は翌日 あちこち運転しなくちゃいけないから寝たいのよ…。

『もう1時半過ぎたよ。みんなはもう寝てるよ』と書いてみるも、全然 興味が無さそうで「ゆうこ いい所に勤めてるねぇ」に戻る。

 「夫桃さん いつ帰って来るの?」に対しては とうとう『今日はホテルに泊まってるから帰って来ないよ』と書く。

 それが1時半過ぎてもまだ「夫桃さん、まだ帰って来ないの?」が繰り返され、最初はさっき書いたところを指差してたけど、だんだん力が加わり 人差し指でトントンと叩き示すように、最後は手の指3本でドンドンと…。 ダメだなぁ…私。

 母に音の強さは聴こえてないからいいけど 怒ってる感じは伝わってるよね。

 きっとこういう人を家で介護してるおうちは いっぱいあるんだろうな。

 私は たった一晩でこんな風なのに、それを何日も何ヶ月も何年も続けてる人があるんだろうな…偉いなぁ…私には無理だ… などと思う。

 早く寝てくれ~~~~!

 2時過ぎに突然「もう寝るわ」

 布団に入れて消灯すると小さな声で「ゆうこ ごめんね~」と。もう一度電気を点けて、母の目の前に顔を出して笑って見せた。

 やっと私もベッドに入ってから、転倒させた事、湯船の角で後頭部を打ちつけた事、これから何か症状が出てくるかもしれない…と、あれこれ考えて不安になる。

 3時…また母が起きる気配。

 私が防寒対策を万全にして行っても、まだ母は、部屋の出口で どこへ行くべきか迷っている。

 トイレに入れて、長いパジャマの上着をたくしあげて首の後ろにはさみこむ。

 4時も同じように。

 次が5時半くらいか…この日初めて私もうとうとしかけてて、母がトイレの前に立って やっと気付いた。

 用を済ませ、布団に入れると「ゆうこ~ ごめんね~」 声がしっかりしてきてる。

 最後のトイレが6時半。

 そこから私も8時まで熟睡。

 自分で排せつができるだけでもありがたい。 オムツの世話や、トイレ内での介助をしてる人も居るんだよね。

 でも私はこれが毎日だったら耐えられないよ…。

 晴天の翌朝。

 母はもう新聞を読む事さえしなくなってた。

 私が用意した朝食は「美味しい^^」と言って食べたけれど、この前来た時みたいな『母娘のらぶらぶモーニング』って感じでは無かったなぁ。

 昼まで手持無沙汰の母をどうするか…。 ずっと笑わないし。

『散歩に行こうか』 出掛けるのは嬉しいみたいで 顔がちょっと明るくなる。

 公園を歩き、さざんかを指差しても あまり興味を示さない。(あんなに大好きで採集しまくってたのに)

 ここちゃんの好きなぼよ~んに乗って見せたら、乗りたい素振りを見せたので乗せたら「怖い」って。

 ブランコも幼児用の方に乗せたら、数回 揺れただけで「怖い」って。

 10分ともたずに帰宅。

 洗い物をしながら、リビングの母を見ると、難しい顔してソファーに座ってる。何を考えてるのかなぁ…。

 『ここで横になったら?』 「いい」と言ったけど、クッションを枕にして、両足を上げさせて伸ばしたら されるがままだった。

 そのまま毛布をかけたら眠ってしまった。 きっとずっと緊張してたんだね。 私も寝たいけど…。

 昼前に夫が帰宅し、3人でお雑煮とおせちの残りを食べる。

 もう夫の存在も見えてない感じ。

 たまに気づいて「あ、夫桃さん 居たの! かっこいいねぇ。触っておこ」と腕を撫でる。 そんな事する母じゃなかったのに。

 夫を残して、母とお寺へ。

 読経の間、経本を持つ手が震えていて、やっぱり具合が悪いのかも…と不安になるも、ご住職の説法をノートテイクしたら感激して泣くし。

 父の墓参では「おとうさん…ゆうこが 連れて来てくれました。 おとうさん、ゆうこを見守っててください」と涙声で言う。

 ウインドーショッピングでは、車椅子を持って来たらためらう事なく乗った。以前は拒否してたのに。 こういう場所を歩くのはもう怖いんだね。

 ミスドで車椅子の母をテーブルにつかせて 私は並びながら母を見るけど、ずっと顔はこわばったまま。

 4時過ぎにホームに着き、玄関ドアを見たら、母がホッとしたような顔をした。そしてスタスタと自分で先に入って行った。

 あぁ…母には もうここが一番安心な場所なんだな…と思った。

 荷物を片づけてホームを出た帰り、運転しながら 悲しいとは違う…辛くはない…可哀想とも違う なんだろう…と 考えた。

 寂しいんだ! と気づく。

 なんか母に逢いたくて泣きたいような気持ちになった。

 母は一泊二日の緊張から解放されて、安全な場所に帰ったんだ…。

 昨日、ホームに行くと、職員さんから「起き上がる時や歩き始めに痛がります」と報告があった。

 やっぱり尻もちをついて傷めたんだよね。骨にひびが入ってるかもしれないな。

 後頭部を打ったのだって本人は忘れてるけど、何か影響があるかもしれないし。

 たった一泊二日でこの失敗。 母の体を傷つけた。

 母が喜ぶなら、一泊二日くらいの苦行は頑張るけれど、母も辛かったようだし、もううちへ泊めるのは無理かもしれない。

 昨日の母は、ソファーで利用者さん達とテレビを見てた(という体)けど、私の姿を見ると笑顔になって手を振って立ち上がったから、やっぱりしっかりしてる。

 時々 職員さんが「娘さんが来てくれたよ~」と言っても、私が側まで行っても「ゆうこ?」と 認識するまでに時間がかかる事もある。

 「ゆうこみたいに しょっちゅう来てくれるのは、お母さんだけ。他の人のところへは誰も来ない。お母さんは幸せ」 (いいえ、他の人のところへも ご家族がいらっしゃってますが)

 帰り際に『また来週来るからね』と書くと「これから暑くなるから無理しなくていいよ」と。

「1階まで送って行く」と私の荷物を持つ。 いつもは「お母さん、帰って来られないから、ここでごめんね」と2階のエレベーター前で別れるのに。

 職員さんが「じゃあ、私も一緒に1階まで行きます」と言ってくれたけど、結局、エレベーター前で両手で握手して別れました。(1階まで行くと言った事を忘れてる)

 母の笑顔が見たい。

 母の「お母さん 幸せ~」が聞きたい。

 去年の今頃は、週に一度実家へ行く度に 母の花集めの始末や 同居の弟との確執などで、私の心身も疲弊してたけど「母が大好き」と思える今は 私も幸せだ。

 

 

 

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