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2017年5月12日 (金)

母の魂

 
 いつものように 特養を訪問して 母に、おやつを食べさせていた最中 母がふいに上体を傾けて、私の顔に自分の顔を寄せて来た。
 
 昔、ちょっとした内緒話をする時 こんな感じだったなぁ。
 
 思いがけない行動に驚きと懐かしさを感じ、私も手を自分の耳に添えて『内緒話を聴く』動作をしてみた。
 母の口から出たのは「ごあん」  久々に聴く母の大きな声。
 
 私が怖い夢をみて大声で叫ぶ時みたいに 言葉は不明瞭だけど、必死さだけは感じる。
 
「ご飯」なのかなぁ…「ごめんね」と言いたいのかもしれない。
 
 母と一緒に過ごす時、母の眼尻からよく涙が滲んでいる。
透明な目ヤニなのかもしれないけれど、もしかしたら母の涙なのかもしれないと想像する時もある。
 
 支援員さん達は「いつも娘さんが来てくださるから、母桃さんは お幸せですよ」と言ってくれるから、母は不幸では無いんだと思うけれど…。
 
 先日は、隣の棟から異動(施設内では定期的に異動がある)してきた新しい支援員さんが
「母桃さんは、ここの支援員にすごく好かれてますよ」と教えてくれた。
 
 シモの世話から食事の介護、何から何までお世話にならないといけなくて、耳も聴こえないし、言葉の理解ができなくなってて会話も成り立たないし、お礼も言えない母が『好かれている』とは…。
 
 どの方にも平等に親身にお世話をしてくださる支援員さん達。
 
 私が居る短時間にも『あんな偉そうな言い方するお年寄り 可愛くないなぁ』
『認知障碍とわかっていても、あんな態度されたら、私ならもうやってられない!』と感じる場面に遭遇する事もある。
 
 それでもにこやかに穏やかに対応してるのを見て 母にもきっとそうしてくれてるだろうと思えて感謝していた。
 
 
 件の支援員さんは「みんな 母桃さんに一生懸命 話しかけるんですよ」と続けた。
 
 聴こえない無反応な母に話しかけてくれるなんて…。
 
 私が行くと「今朝 起こしに行って 挨拶したら返事してくれましたよ」とか「母桃さん! おはようございます!って しつこく言ったら『わかっとるわ!』って返してくれましたよ」と 毎回 誰かが報告してくれる。
 
 目覚めた時が 薬が影響が少なくて一番覚醒しているから。 
 
「わかっとるわ!」なんてひどい言い方をされた事さえ 愉快な反応として楽しそうに報告してくれる。
 
 …手はかかるけれど、嫌われてはいないんだなと思うと しみじみ嬉しい。
 
 
 そしてお仲間のTさんは この日も私を見るなり満面の笑みで
「よく来てくれてご苦労様だねぇ。 一生懸命 やってあげてね」と おっしゃる。
私が支援員じゃなくて定期的に来てるのを ちゃんと認識してらっしゃるんだよね。
 
 でも ちょっと長く会話してると
「この方は、おたくのお姉さん?」 ひぃぃ…私 何歳に見えるんだろう?
「いいえ、母なんですよ」
「ああ、お母さん。 そうすると おたくはお父さん似だねぇ。 そういえば、この辺りがお父さんにそっくりだわ」 父 知らないよねぇ~(笑
 
「この方は何年生まれ?」
「昭和6年です」
「じゃあ 私の方が上だねぇ。 私 大正15年だから」 母よりは年上だろうと思ったけれど、大正生まれにしては若々しい。
 
 でも すぐに続けて
「干支は?」
「ひつじです」
「私より この方の方がお姉さんだねぇ」と 未年から数える。
そこからしばらくは 母が年上になったり年下になったりの繰り返し。
 
 そしてまた「失礼だけど、おたくは結婚はしてみえるの?」と。 私が未婚かどうか 毎回 気にしてくださる(笑)
 
 Tさんと そんな微笑ましいやり取りをしている時も 母の手をさすり、目尻の涙をぬぐってやる。
 すべすべ(つるつる…かな)の頬を何度も撫でる。
 
 
 シミとしわのある赤ちゃんみたいな母…目尻の涙は母の心なんだろうか…母に叱られた事 一緒に喜んでくれた事 泣いてくれた事 私を愛してくれた事 私は忘れない。
 
 母の魂もきっと忘れてないはず。
 
 切なくて 私も涙が滲む。
 悲しいのとは違う涙。

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